【体験レポ】『僕たちの映画館』|イマーシブシアターともTRPGともつかない、没入体験の新しいかたち

物語体験

取り壊しが決まった、神保町の歴史ある映画館。その最後の上映会に、あなたは観客として招かれる——。

そんな設定から始まる『僕たちの映画館』に参加してきました。
すでに公演は終了していますが、「参加者の会話次第でエンディングが変わる」という仕組みが非常によくできていて、没入体験の中でも記憶に残る作品だったので、
今回はその魅力を、実際の体験を交えてレポートします。
イマーシブシアターや脱出ゲームがまだ未経験という方にこそ読んでほしい内容です。

先に断っておくと、この作品を「イマーシブシアターです」と言い切っていいのか、正直迷いました。公式でも「これは映画でも、演劇でも、いわゆるゲームでもない」としたうえで、
独自に「歩くTRPG」という言葉を使っています。
既存のジャンルにきれいに収まらない、新しい体験だったということです。
この記事では便宜上「没入体験」という言葉でまとめますが、そのジャンルの新しさ自体も、この作品の面白さの一部だと思って読んでもらえたら嬉しいです。

基本情報

  • 作品名:僕たちの映画館
  • 会場:岩波神保町ビル(神保町の歴史ある映画館。取り壊しが決まっている)
  • 開催期間:2026年8月(公演終了済み)
  • 体験時間:約70分
  • 脚本:ディズム氏(TRPGシナリオライター。代表作『カタシロ』)
  • 料金:平日5,000円/土日祝5,500円(税込)
  • 公式サイト:僕たちの映画館(公演終了) ※服装・持ち物などの詳細はこちらを参照

「歩くTRPG」と称されていたのも納得の、選び・迷い・考えることそのものを楽しむ設計でした。

初めての人が気になりそうなポイント

服装・持ち物
会場は階段での上下移動があり、館内をかなり歩きます。
動きやすい服装・靴で行くのが安心です。
手荷物を預かってもらえる場所はないので、大きな荷物は事前に近隣のコインロッカーに預けておくのがおすすめです。
会場内にお手洗いもないため、開演前に済ませておきましょう。

料金は妥当か
平日5,000円、土日祝5,500円という価格を、イマーシブ体験などが初めての人は「高い」と感じるかもしれません。
私もイマーシブ体験に初めて参加した時はそう思いました。

ですが、
1回あたり最大24人程度の観客に対して、
キャストは少なくとも6人。
おそらく裏方のスタッフもいる体制で進行します。

これだけの人数で1人ひとりに丁寧に対応してくれることを考えると、
決して割高ではなく、むしろこのジャンルの中では良心的な価格だと感じました。


取り壊されるまでの期間限定の開催という事情もあるので、初めての一歩としては勇気のいる金額かもしれませんが、内容と体制を踏まえると納得感のある設定だったと思います。

一人参加でも大丈夫
「会話が結末を左右する」タイプの没入体験と聞くと、
グループで行った方が良さそうに思われがちですが、
一人参加でも問題ありません。
実際、男女問わず一人での参加者は一定数いて、会場で浮くようなことはありませんでした。

こうした没入体験に興味が湧いた方は、まずは今参加できる公演がないか、チケット予約サイトを覗いてみるのがおすすめです。

⚠️ここから先はネタバレを含みます⚠️

会場となった映画館はすでに取り壊しが決まっており、この作品自体の再演は今のとこる発表されていません。

それでも、これから似たような没入体験に参加される方の楽しみを損なわないよう、
ここで一区切りを設けています。

まだ他の没入体験・イマーシブシアターをこれから楽しみたいという方は、ここで一旦区切って、また別の作品を選ぶ際の参考にしてもらえたら嬉しいです。
物語の内容まで知りたい方は、このまま読み進めてください。

体験レポート

物語の仕組み

劇中では、”笑顔の度合い”で人々を管理する社会「GGG」が描かれます。
私たちが新入社員として配属されたその日、社会を支える「笑顔を感知する機械」が停止してしまいます。
登場人物たちは、「機械を再起動させるべきか」で意見が割れ、悩み続けています。
そして観客である私たちは、ただ見ているだけの存在ではありません。

登場人物と直接会話をし、その回の参加者全員のやり取りの積み重ねによって、エンディングそのものが変わっていくのです。

「機械に頼らない」と強く主張する声が多ければ、再起動させないエンディングにたどり着く。

逆に、慎重派が多ければ違う結末になる——。
誰か一人の選択ではなく、その場に居合わせた”僕たち”全員でエンディングを作っていく、という設計がタイトルの意味にもつながっていると感じました。

参加してみて気づいた、自分の「クセ」

実際に登場人物と会話する場面で、私は当たり障りのない返答をしてしまいました。

後から振り返って気づいたのですが、これは普段の自分の性格がそのまま出た瞬間でした。
普段から極端な立場を取らず、間を取ってバランスを取ろうとするタイプ。
それが、こういう緊張感のある会話の場でも咄嗟に出てしまうんだな、と。

同時に、一緒に参加したメンバーの主張の強さによっても、その場の空気も最終的なエンディングも変わってくるそうです。
誰と行くか、その日そこに居合わせた人たちがどんな人か——それによって全く違う物語が立ち上がる。

これこそが、映像作品にはない今回ならではの面白さだと思います。

美術・演出のこだわり

物語の仕組みだけでなく、空間そのものの作り込みも見どころでした。

  • 蛍光塗料での装飾
     公演後に取り壊されることが決まっている建物だからこそ、壁に直接、蛍光塗料で絵や文字が描かれていました。
    「もう元に戻す必要がない」という前提があるからこそ実現できる、大胆な演出です。
公式Xより引用 
  • “笑顔”を判定する装置
    「税務省 GGC表情管理局」の名で、本当に参加者の顔をスキャンして判定する装置が登場します。パーセンテージとともに「GOOD」「BAD」の判定が表示され、うまく笑顔が作れないと「ERROR 国民データ照合失敗」という表示が出ます。
    設定を頭で理解するだけでなく、実際に自分の顔が数値化・判定される感覚を体で味わえる仕掛けでした。
  • 退場後の余韻を演出する掲示
    劇場を出た先には、神保町の劇場をモチーフにした用紙に、過去の参加者たちが体験後の感情を書き込んで貼っていくコーナーがありました。
    物語が終わった後の「現実に戻ってからの気持ち」まで含めて体験の一部にしている演出だと感じました。
公式Xより引用
  • 紙もの小道具の作り込み
    督促状や履歴書といった、一見地味な「紙もの」の小道具まで細部まで作り込まれていました。
    手に取れる距離でじっくり読み込めるクオリティで、こういう部分の緻密さが世界観への没入感を静かに底上げしていたと思います。

リピーターが多いのも納得

この作品はリピーター参加が多かったそうです。理由は大きく2つ考えられます。

  1. エンディングが毎回変わる
    参加者の会話次第で結末が変わるため、「今度は違う結末を見てみたい」という気持ちが自然に生まれます。
  2. 会話する役者をある程度選べる
    最後の選択の場面で、誰と会話するかを自分で選べる仕組みがあり、選ぶ相手によって見える物語の側面が変わってきます。

一度きりで終わらせるにはもったいない、何度でも違う体験ができる設計になっていました。

一人参加でも楽しめた

こういう「会話が結末を左右する」タイプの没入体験は、一見グループで行った方が楽しそうです。
しかし今回、私は一人で参加でした。
それでも十分に楽しむことができました。

理由は、世界観への入り込み方が変わるからです。
連れがいると、その人との会話やリアクションが挟まる分、物語と自分の間に少し距離ができます。
一人であれば、良くも悪くも自分の言葉と選択だけで物語と向き合うことになり、没入の深さが違います。

さらに、この作品のように参加者ごとに会話や選択が分岐する仕組みでは、実は連れと離れて別々に体験し、終演後に「どんな会話をしたか」「どのエンディングに辿り着いたか」を情報交換する楽しみ方もできます。
一人で完結させても、後から答え合わせをしても、どちらも面白い設計になっているのです。

まとめ

『僕たちの映画館』は公演終了済みですが、「参加者の選択で結末が変わる」「その場にいたメンバーによって全く違う物語になる」というタイプの没入体験は、他の作品でも増えてきています。

一人で行っても、誰かと一緒に行っても、それぞれ違った面白さがあるのがこのジャンルの良いところです。
一人なら物語との距離が近くなり、複数人ならあえて別行動して後から語り合う楽しみが生まれます。

次にどんな没入体験に参加するか迷っている方は、まずは気になる公演のチケット予約サイトをチェックしてみてください。

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